大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和27年(行)11号 判決

原告 二村禧

被告 熱田税務署長 外一名

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「原告の昭和二十五年度分総所得金額につき被告名古屋国税局長が昭和二十七年五月九日なした審査決定はこれを取消す、原告の右総所得金額につき被告熱田税務署長が昭和二十六年七月十一日なした更正決定及び同年十月五日なした再調査決定はいずれもこれを取消す。訴訟費用は被告等の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として次のように述べた。

原告は肩書住所で薬種商を営む者であるが、その昭和二十五年度における総所得金額は金十八万七千百三十七円五十七銭であるので、昭和二十六年三月被告熱田税務署長に対しその旨の確定申告書を提出した。ところが同被告は同年七月十一日原告の右総所得金額を金四十三万三千円とする旨更正決定をしたので、原告は同年八月二十四日同被告に対し右更正決定に対する再調査の請求をしたが、同被告は同年十月五日右請求を理由ないものとして棄却する旨決定した。そこで原告は同月十五日右決定につき被告名古屋国税局長に対し審査の請求をしたところ、同被告は昭和二十七年五月九日被告熱田税務署長のなした再調査決定を取消し原告の昭和二十五年度における総所得金額を金四十一万四百円とする旨決定し、その通知は同月十一日頃原告方に到達した。しかしながら原告の前記確定申告は正確に記帳した帳簿にもとずいてなされているのに対し、被告等の各決定はいずれも原告の所得の十分な調査を行うことなく単なる見込をもつてなされたものであつて過大失当である。よつて原告は被告等のなした右違法の処分の取消を求める。

被告等指定代理人は主文同旨の判決を求め、原告の請求原因に対して次のように述べた。

原告主張の請求原因事実中、冒頭より被告名古屋国税局長の審査決定までの事実(但し原告の昭和二十五年度における所得額が原告主張の金額であることは否認する)はこれを認めるがその他の点は否認する。被告熱田税務署長が原告の昭和二十五年度における総所得金額を金四十三万三千円と更正決定した理由、及び被告名古屋国税局長が原告の右総所得金額を金四十一万四百円と審査決定した理由は以下述べるとおりである。

(一)  原告の昭和二十五年一月一日より同年十二月末日までの間における総収入金は二百一万三千四十六円(その内訳は売上金百六十八万八千五百八十五円、期末商品三十二万四千四百六十一円)であり、総支出金は百五十六万四千五百三十八円(その内訳は仕入金百六万四千十九円、期首商品三十八万七千百二十三円、必要経費十一万三千三百九十六円)であるから、総収入金より総支出金を差引けば原告の昭和二十五年度における総所得金額は金四十四万八千五百八円となる。

(二)  右のうち、売上金百六十八万八千五百八十五円の計算の根拠は次のとおりである。即ち原告の昭和二十五年度における期首商品額(前年度よりの繰越商品額)三十八万七千百二十三円と仕入金額百六万四千十九円とを合計すれば百四十五万千百四十二円となり、この金額より期末商品額三十二万四千四百六十一円を控除すれば差引販売原価は百十二万六千六百八十一円である。しかるところ原告のような薬種商においては調剤と売薬(調剤を除いた他の商品即ち新薬、家庭薬、新製剤、石鹸類、歯磨等を総括する呼称である)とのウエイトは平均売薬九〇%、調剤一〇%の割合であり、又原告に対する実額調査の結果によれば販売原価に対する差益率(売上額と原価との差額を原価で除したものをいう)は調剤については一三〇%ないし二六〇%であり(よつて最低の一三〇%を採用する)、売薬については四一%であることが明らかとなつた。右により原告の売上高を計算すれば別紙計算表のとおりである。即ち原告の売上高は百六十八万八千八百九十四円となる(従つて前記売上高百六十八万八千五百八十五円は計算の誤謬であるが、被告等はこれを訂正せず、右百六十八万八千五百八十五円を原告の売上高として主張する)。原告主張の帳簿の記載はとうてい正確とは言い得ない。

(三)  次に必要経費十一万三千三百九十六円の計算の根拠は次のとおりである。まず被告熱田税務署長が原告の所得の実額調査をしたところ、原告は次のようにその事業上の必要経費を申出た。即ち、広告費一万五千三百八十円、交際費四千五百円、通信費一万六千百四十円、保険費千十二円五十銭、消耗費八百六十二円、水道光熱費七千五百三十二円九十銭、修繕費三万七千二百十八円、公租公課四万五千三百九十七円、支払利息二千九百八十六円、会費三千七十円、事務費一万千七十二円、厚生費一万二千八百九十七円五十銭、雑費四千六百三十円、以上合計十六万二千七百二十九円九十銭である。しかしながら右のうち次の金額は必要経費として認められないものであるから除外する。

(1)  通信費のうちその三〇%四千八百四十二円は事業に関連ない家事のため支出したものである。

(2)  修繕費のうち、九月二十九日木材代金五千六百円、十月六日東邦ガス市水道局支払千二百二十円、十月二日レンガ代二百七十五円、十月十一日及び十一月三十日建具代一万九百十二円、合計一万八千七円は資本的支出たる改造費である。

(3)  公租公課のうち、二月二十七日取引高税四千円は昭和二十四年度分である。三月十日支出六千八百円は昭和二十三年度分価格差益金である。自転車二台分リヤカー一台分の計六百円のうち二〇%百二十円は家事関連の支出である。

(4)  厚生費一万二千八百九十七円五十銭については原告方は雇人のない事業であるから認められない。

(5)  雑費はその内容が不明であるからその内約半額である二千六百六十七円を私生活費として見積る。

以上(1)ないし(5)の除外額合計は四万九千三百三十三円五十銭であるから、原告が申出た必要経費額より右金額を差引いた残額十一万三千三百九十六円四十銭が必要経費として認め得るものである。

(四)  以上のようなわけで、原告の昭和二十五年度における総所得金額は前記第一項記載のとおり金四十四万八千五百八円であること明らかである。しかして被告熱田税務署長の更正決定並びに被告名古屋国税局長の審査決定はいずれも右金額の範囲内でなされたものであつて何等の違法は存しない。よつてこれが取消を求める原告の本訴請求は失当であつて応じ難い。

原告訴訟代理人は被告の主張に対して次のように述べた。

被告主張事実第一項のうち、原告の昭和二十五年度における期末商品額、仕入金額、期首商品額がいずれも被告主張のとおりであることは認める。売上高及び必要経費の点は否認する。同第二項のうち、原告方における調剤と売薬とのウエイトが被告主張のとおりであることは認める。その他は否認する。同第三項のうち、原告が被告主張のとおり必要経費を申出たこと、修繕費のうち被告主張の金額が改造費であること、公租公課のうち取引高税、価格差益金、自転車リヤカー税の金額が被告主張のとおりであること及び原告の事業には雇人がないことはいずれも認める。その他は否認する。同第四項は否認する。しかして被告等は原告方における売薬の差益率を四一%と主張し、これをもつて原告の昭和二十五年度における所得額算定の基礎としているけれども、右は過大に失し実際は平均三〇%以内である。これによつて計算するときは原告主張の正当なことが明らかである(証拠省略)。

三、理  由

(一)  次の事実については当事者間に争いがない。原告は肩書住所において薬種商を営む者であるが、昭和二十六年三月頃被告熱田税務署長に対し原告の昭和二十五年度における総所得金額は金十八万七千百三十七円五十七銭である旨確定申告をした。ところで同被告は昭和二十六年七月十一日原告の右所得額を金四十三万三千円と更正決定をした。これに対し原告は同年八月二十四日同被告に対し右更正決定に対する再調査の請求をしたが、同被告は同年十月五日原告の右請求を棄却する旨決定した。原告は更に同月十五日被告名古屋国税局長に対し右決定に対する審査の請求をした。よつて同被告は昭和二十七年五月九日被告熱田税務署長のなした再調査決定を取消し、原告の昭和二十五年度における総所得金額を金四十一万四百円とする旨決定した。右決定は同月十一日頃原告方に通達された。

(二)  被告等は原告の昭和二十五年度における総収入金は二百一万三千四十六円(売上金百六十八万八千五百八十五円、期末商品三十二万四千四百六十一円)である旨主張するのでこの点について案ずるに、期末商品額については当事者間に争いがないので次に売上金について審案する。

(1)  まず以下の点については当事者間に争いがない。原告の昭和二十五年度における期首商品額は三十八万七千百二十三円であり、仕入金額は百六万四千十九円である。以上合計百四十五万千百四十二円より原告の同年度における期末商品額三十二万四千四百六十一円を控除すれば差引販売原価は百十二万六千六百八十一円となる。しかして原告のような薬種商においては調剤と売薬とのウエイトは平均売薬九〇%調剤一〇%の割合である。

(2)  次に被告等は原告方における売薬の差益率は四一%であり、調剤のそれは一三〇%ないし二六〇%(但し最低の一三〇%を採用する)である旨主張する故この点につき案ずるに、成立に争いない乙第一号証によれば原告の昭和二十五年度における利益率は約四割であることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。しかしてここに利益率とは売上額と原価との差額を売上額で除したものをいうから、差益率(売上額と原価との差額を原価で除したもの)とは異なるけれども差益率は利益率より大であつて利益率四割のとき差益率を四一%とすることは実際上の率以下であること明白である。よつて売薬の差益率が四一%であるとの被告等の主張は相当である。更に証人水野定男の証言により成立を認め得る乙第二号証の一ないし四によれば、原告と同業の者において調剤の差益率は一三〇%ないし二六〇%であることが認められるので原告においても亦右と同様の差益率であるものと認定するを相当とする。故にこの点に関する被告等の主張は理由がある。

(3)  右により計算すれば別紙計算表のとおり原告の昭和二十五年度における売上高は百六十八万八千八百九十四円であるから原告の同年度における売上高は百六十八万八千五百八十五円であるとの被告等の主張は前記金額の範囲内であつて正当である。従つて原告の同年度における総収入金が二百一万三千四十六円である旨の被告等の主張も亦妥当である。

(三)  次に被告等は原告の昭和二十五年度における総支出金は百五十六万四千五百三十八円(仕入金百六万四千十九円、期首商品三十八万七千百二十三円、必要経費十一万三千三百九十六円)であると主張する故この点につき考察するに、期首商品額及び仕入金額については当事者間に争いないこと前記説明のとおりであるから、以下必要経費の点について判断する。

原告が被告熱田税務署長に対し被告主張のとおりの内容及び金額を原告の昭和二十五年度における事業上の必要経費として申出たことについては当事者間に争いがない。しかして被告等は原告申出にかゝる必要経費のうち次に掲げる内容及び金額(合計四万九千三百三十三円五十銭)を必要経費でないものとして除外する旨主張するのでこの点につき検討する。

(1)  通信費一万六千百四十円のうち三〇%四千八百四十二円は事業に関連がない家事のためのものである旨の主張は、その根拠必ずしも明確ではないけれども、申告制を採用する現行税制下において実額調査の困難な実情にあることを考えれば右のような推定も敢て不当とするには及ばないからこれを認容するを相当とする。

(2)  修繕費のうち九月二十九日木材代金五千六百円、十月六日東邦ガス、市水道局支払千二百二十円、十月二日レンガ代二百七十五円、十月十一日及び十一月三十日建具代一万九百十二円、以上合計一万八千七円は資本的支出たる改造費であることは当事者間に争いないところである。

(3)  公租公課のうち二月二十七日取引高税四千円は昭和二十四年度分であり、三月十日支払六千八百円は昭和二十五年度分価格差益金であることは当事者間に争いがない。しかして自転車二台分リヤカー一台分計六百円(この点も当事者間に争いない)のうち二〇%百二十円を家事関連であるとの主張は前記(1)と同様の理由により相当と認める。

(4)  厚生費一万二千八百九十七円五十銭は原告は雇人を有しないから認められない旨主張し、原告が雇人を有しないこと当事者間に争いない故、この点の主張も相当と認める。

(5)  雑費四千六百三十円はその内容が不明であるからそのうち約半額二千六百六十七円を私生活費と見積る旨の主張も亦前記(1)と同様の理由により相当と認める。

かくして原告申出の必要経費十六万二千七百二十九円九十銭のうち、四万九千三百三十三円五十銭を必要経費でないものとして除外する旨の被告等の主張は相当であり、従つて必要経費として認めうる金額は十一万三千三百九十六円四十銭である。しからば原告の昭和二十五年度における総支出金は百五十六万四千五百三十八円であるとの前示被告等の主張は結局認容さるべきものである。

(四)  よつて前顕認定にかゝる原告の昭和二十五年度における総収入金二百一万三千四十六円より同総支出金百五十六万四千五百三十八円を差引けば、原告の同年度における総所得金額は四十四万八千五百八円であること明らかである。しかして前記のとおり被告熱田税務署長の更正決定額は四十三万三千円であり、被告名古屋国税局長の審査決定額は四十一万四百円であつて、右はいずれも前示総所得金額の範囲内であるから、何等の違法も存しないものといわねばならない。

よつて原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 山口正夫)

(別紙省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!